一応デザイナーだかんね

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      去年の秋、珍しくFACTIOに来客あり。来店されたのは三人組の妙齢美女。目的は、カル
    トナージュなるものに取付けるための取っ手探し。FACTIOはつまみの専門店と称しているが
    わざわざつまみを探すために遠路訪れる方は極めて少ない。しかし、だからということか来
    店されるお客様はいずれもなかなか相当な方ばかり。ある意味、強者揃い。このお客さまも
    例に違わずかなり強烈な個性の持ち主で、入店されてつまみを一通りみての後、取っ手なん
    かそっちのけで店内にあるものを機関銃のような質問攻め。床の穴に感心し、未完成の商品
    に感心し、上や下への大騒ぎで、まっことかしまし娘のごとし。そんな勢いに押されっぱな
    しで気が付けば土俵際でつま先立ち状態。こっちとら無口な坊やに急速変身立ち尽くす。元
    気だぞい、この年令の女性は。恐いものなんかじぇんじぇんない。きっと、どこにいっても
    こんなふうにブイブイ言わせて闊歩しとるんだろうなぁ。
     ま、ま、お茶でもと珈琲を用意しても口が休まるときはない。もちろんつまみの店なんか
    で儲かるわけはないなんていつものペースで話したら、生業はなに? と聞かれたもんだ。
    デザイナーという一般的な呼称は恥ずかしい、生業と言えるほどのことはしていないけど、
    こういう場合言うしかない。「一応、家具のデザインもやってるんですけど」。アラ、それ
    ならテーブルも作っていただけるのかしら?・・・・・。なんてことが端緒であれよあれよ
    とトントン拍子でテーブルを作ることになったの。作るたって私じゃない、知人のサンダン
    スhttp://www.sun-ww.com/が作ってくれる。私は、設計だけ。作るわけじゃないからプ
    レッシャーは財布のように軽く安気なもんです。
     この方の家にはYチェアがいっぱいある。
     デンマークの家具デザイナー ハンス・ウェグナーが1950年にデザインした有名な椅子で
    す。背もたれの支えがY形なので通称Yチェア。この椅子に合わせたテーブル、しかも普段は
    普通サイズで、来客時には大きくなって欲しい。そんな要望なんだ。家具を志している者な
    らウェグナーは避けては通れません。店主だって道ならぬ恋だけに明け暮れているわけじゃ
    ない。根はマジメなんだ(と、自分では思ってる)。中学の頃にデザインってものがあるこ
    とを知り、以来隅っこではあるけど、とにかく家具デザイン業界と共に歩いてきたんだ。そ
    の中でもウェグナーは別格。憧れの存在。ほぼ唯一のアイドルでやんす。だからね、こりゃ
    大マジメに取り組まにゃなるまいってんでパンツのゴムを引き締めますです。
     折もおりひょんなことからテーブル伸張金具が入手できることになり、タイミングもバッ
    チリ。金具がないとテーブルを大きく(伸長)するには伸展構造ぜんぶ木で作らなくてはな
    らないから大変なんですよ。これが。作るのも大変だし、どうしたって重くなるからスムー
    ズに伸長するのがむずかしいのです。まずはお客さんの家に行って要望を聞き、とにかく実
    物大のモデルを作ろうと思ったワケ。この段階での眼目は2つ。大きさを実感していただく
    ことと部屋に置いた状態を確認すること。普通サイズは今使ってるテーブルと同じだから問
    題はない。けど、伸展して大きくなったときのサイズは実物でないとわからないでしょ。こ
    の仕事が進むかどうかわからない段階で原寸モデルを作るのはリスク(原寸を作ってはみた
    ものの中止になるかもしれないでしょ)はあるけど、相手がウェグナーであれば悔いのない
    ようにしたいから、当方に問題はこれっぽっちもない。
     なんせウェグナーですから気合いの入り方が違います。一生のうちにこんな素晴らしい仕
    事が舞い込むなんてことは多分もうないでしょう。なので、こんなふうにね。ありあわせの
    材料で作ってみました。店内で組み立てたけどデ、デカイ!! この位置でしかカメラに
    納まりません。
     巾は85センチ奥行きは1.7メートル。いたって標準的なサイズです。これを伸ばすと
     ごめんなさい。縦横間違ってしまって。どうぞ、首を傾げて見てくだしゃんせ。どーです
    わかりにくいだろ〜けど、長い長い。
     ほらね、中央部にこんなステキなアルミの金具が鎮座しとるわけだ。うーむ。アタイも初
    めて見る金具だからちょっと圧倒される。この金具、1.5mまでテーブルが伸びることが出来
    ます。フ〜ンなんて聞き流さないでいただきたい。いーですか。1.7mのテーブルが3.2mま
    で延びるんでっせ。簡単に言えば倍サイズになっちまうってことでっせ。しかも、テーブル
    両端に手を付いたって全然平っちゃらでさ。もう、なんていうかどっからでもかかってきな
    さい!みたいな。そんな絶大な信頼感がある逸品。延ばすにはテーブル板を引っ張ればよろ
    しい。スルスルと両側に開いて行く。しかもですよ、引っ張るのは両側でなくともいいの
    だ。片方の板だけを引っ張れば、あ〜ら不思議。向こう側の板は自動的に向こうに延びて行
    くんですたい。中にワイヤーが入ってますからね。ワッカルかなぁ〜。
     脚はこんな感じ
     これをFITに載せてお客さんの家に。名車FITはなんでも載せることができます。そしたら
    お客さんは延びて大きくなることにびっくり。かなり広い部屋なんだけど3.2mのテーブルと
    なると置き場所に困る。なので延びは1mにおさめて、最大2.7mとなった。それでもデカイ
    でっせ。延ばす理由は、子供や孫が来た時に1.7mじゃ狭過ぎると、だから普段はふつう、来
    客時は広くしたいの。原寸モデルを持ち込んだので大きさの感覚は理解していただけまし
    た。高さも確認出来ました。おおよそのデザインも確認していただき、で、次の段階へ。
     縮尺図面を切り抜き
     材料に張り付け
     糸鋸盤でシコシコ切り抜き
     テーブルも2案作り
     これが伸長した時
     脚の原寸モデルも作ります
     脚と床が接するところはこんな感じで丸くなる
     脚の端面を機械で丸く加工。右端と左側の丸さが異なります。
     異なる曲面をカンナとヤスリできれいに仕上げる
     脚もこの通り2種類作りました。ほとんど同じに見えます。けど、違う。およそ70㎝の長
    さは同じだけど膨らみがちがうんです。片や2.5ミリ片や5ミリ。いずれもほんの少〜しだけ
    膨らんでいるのです。写真では到底判別叶わず、実物で比較してもそう言われればという程
    度の差しかないもんね。
     さて、いよいよ縮尺モデルの組み立て
     脚と貫(ぬき。水平材のこと)をそうっとボンドで接着し(小さいから手持ちのクランプ
    で締められない)
     ひっくり返した形で組み立てる。だんだん完成形に近づきます
     縮尺とはいえ脚は丸くせねばならぬ
     脚と貫の接合部も出来るだけホンモノに近くせねばならぬ
     ご覧の通りにテーブルのフレームは出来上がり。実際もこんな構造になります
     甲板(テーブルトップ)を載せるとそれらしくなりますなぁ
     ハイ! これが伸長した時。大きいでしょ。
     ハイ! これが伸長途中の図。このように甲板は両側に開かれて、下に伸長に使う2枚の
    板が収納されます。
     ま、ここまでは普通の工程。だけど、今回はウェグナーというご神体がおわしますから、
    さらに実物に肉迫せねばならないのです。というのは、Yチェアに合わせたYテーブルをとい
    うことなので、何をどうしたらYチェアと同じような雰囲気イメージになれるかが肝要で。Y
    チェアの魅力はなんだろうどこだろう? 構造は決まった、材料も決まっている、さて形は
    どうしたもんかのう。ひいてはウェグナーのデザインの魅力は?考えは次々と広がります。
     店主思うに、ウェグナーの椅子の魅力はなんといっても「懐かしさ」に尽きる。映画「ラ
    ストショー」は妙に懐かしさが満ちあふれていたけど、監督のボグダノビッチは「あらゆる
    人の共通の概念は『懐かしさ』だ」なんてこと言ってたことがいつも頭の片隅に引っ掛かっ
    ている。数多ある家具の中でも懐かしさではウェグナーがNo.1だと私は確信している。別の
    言い方だとYチェアに限らずウェグナーの家具は誕生した時から古さを内包しているのだ。だ
    からいつまでたっても古くならない。なぜなら最初っから古いから。こりゃ、凄いことです
    よ。多くの家具たちは最初は新しいけどいずれは古くなりますからね。まったく異次元の存
    在として屹立しております。音楽の世界でいうなら高橋真梨子。懐かしさを感じさせる歌は
    いっぱいあるけど、彼女は声が懐かしさを感じさせるんだから天下無敵だと私は思うんだ。
    それに歌が加われば懐かしさは一層、まったく既視感の世界に浸れるのではないかしら。
     話しを戻します。ウェグナーの魅力「懐かしさ」を私なりに解釈して、それは曲面だとい
    うことで一件落着。これに至るにはいろいろあったけど、つまりは、私の経験や知識などか
    ら導き出された極めてシンプルな答えということ。それに誘われてこのテーブルは、あらゆ
    るところで曲面が使われていて、しかもその曲面はとても微妙なアールで構成されている。
    脚もそうだけど、テーブルトップの形も同じで周囲は直線部分はありません。これを確認す
    るには縮尺図面ではダメ、じゃ原寸図となるけど大き過ぎてとてもじゃないけど描けない。
    ならばということで部分的に原寸で図面を描いてみたわけです。上述の肉迫するっていうの
    はこういうことでね、それが確認できないと不安だし、ウェグナーに失礼ですもんね。
     ハイ これが私が考えるウェグナーの魅力。テーブルトップの短辺85センチの部分曲線。
    この図の左右は85センチ、これに上方向の1.7mが加わればテーブルの形となります。上と
    下では曲率が異なります。上の方がやや丸いでしょ。これをサンダンスさんに相談したら出
    来れば曲率のデータが欲しいって言われてしまいまして。ウーム、どうやったらこの円の半
    径が出せるんだろうといささか考えましたわい。数回チャレンジの後、出て来た半径は、上
    は8.2m、下は13.3m。これのどちらがYチェアのイメージに近いのか? 悩ましい。上の方
    が丸みが目立つ、下は目立たない(見方によっては直線に見えるかもしれない)。角のアー
    ルも違います。さぁ、どっち。悩むなぁ〜。ま、サンダンスさんやお客さんと相談して決め
    ましょか。
     短辺85センチはまだ短いから曲率も小さいんだけど、長辺1.7mともなると曲率は正円で
    は描ききれず楕円を使わないと図面が描けません。丸みのあるほうは30m×20mの楕円、も
    う一方は30m×26mという途方もない楕円を使うことになりやした。どうよ、こんな曲率。
    とてもじゃないけど現実のものとは思えない。長さ1.7mの中央部で1〜2.5センチの膨らみ
    ですから、これをどうやって材料に描くのか、どうやって削り出すのか、興味は尽きない店
    主。作業途中で何度か見せていただかなくては気が治まりません。そんときゃヨロシクね、
    サンダンスさん。
    でもって明日打ち合わせなのだ・・・・・・・・・・の、店主でした。

    コメント
    ヴェグナーは50歳を過ぎる頃までデザイナーと呼ばれることを拒否、「私は職人」と常に訂正を怠らなかったという話を本で読みました。知ったかぶりが当たり前の「自称デザイナー」の方々に、彼のカンナくずを煎じて飲ませたい。
    • 職人A
    • 2013/02/07 12:57 PM
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